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札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)3063号 判決

原告

高沢鉄雄

被告

竹中毅

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金五三四万五七〇一円および内金四五四万五七〇一円に対する昭和四九年四月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その二を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告らは原告に対し各自二〇七六万七四二四円および内金一九二六万七四二四円に対する昭和四九年四月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

原告は次の交通事故(以下本件事故という)によつて、傷害を受けた。

1 発生日時 昭和四九年四月一六日午後九時一五分ころ

2 発生場所 札幌市北区北九条西三丁目交差点(以下本件交差点という)の北側横断歩道上(以下本件横断歩道という)

3 加害車 札五り六三―九六号小型乗用車(以下本件車両という)

4 右運転手加害者 被告 竹中毅

5 本件車両所有者 被告 竹中れん子

6 被害者 原告 高沢鉄雄

7 事故の態様 被告竹中毅は本件車両を運転して本件交差点にさしかかつたところ、信号が未だ赤を示しているにもかかわらず、これを無視して時速四〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したため、折から青信号に従つて本件横断歩道上を歩行していた原告を発見回避することができず、本件車両の前部を原告に衝突させ同人を転倒させた。

8 結果 (一) 右衝突により原告は外傷性尿道断裂、骨盤骨折、頭部外傷、胸腰部打撲、臀部打撲、左大腿部挫創等の各傷害を受けた。

(二) 原告は本件事故後直ちに中村脳神経外科病院にて大腿部挫創縫合等の救急措置を受けた後、札幌医科大学附属病院泌尿器科に転医され、本件事故当日以後、昭和五〇年五月一〇日まで同病院にて入院治療を受けたが、その間昭和四九年九月三日および同年一二月三日の二度にわたつて尿道形成術(プルスルー手術)を、次いで翌五〇年三月二六日、ヨハンゼン手術の施行を受けた。

(三) 昭和五〇年五月一〇日、一旦退院したが現在なおも通院治療を継続しており、再度尿道形成術が予定されている。

二  責任原因

1 被告竹中れん子は、本件車両の所有者であり、本件事故当時、被告竹中毅に本件車両を貸与し、その運行を支配しかつその利益にあずかつていたものであるから、自賠法第三条により、本件車両の運行によつて生じた原告の後記損害を賠償すべき義務がある。

2 被告竹中毅は、本件車両を運転していたものとして、信号に従つて走行すべき義務および前方を注視し横断歩道を横断している歩行者の動静に注意し、歩行者の安全を確保すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り漫然と時速四〇キロメートルの速度で進行した過失により、本件事故を発生せしめたものであるから、民法第七〇九条により原告の後記損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

原告は昭和五二年一〇月八日の時点まで、本件事故によつて次の損害をこうむつた。

1 治療関係費

(一) 治療費 一三七万七五〇五円

原告は左の期間札幌医科大学附属病院に入通院し、その診療費として一三七万七五〇五円を支払つた。

(1) 昭和四九年四月一六日から同五〇年五月一〇日まで三九一日間入院

(2) 昭和五〇年五月一一日から同年一一月一六日まで一九〇日間通院

(3) 昭和五〇年一一月一七日から同年一二月二一日まで三五日間入院

(4) 昭和五〇年一二月二二日から同五二年一〇月八日まで六五七日間通院

(二) 入院諸雑費 二一万三〇〇〇円

二回の入院(右(1)と(3))に要した期間四二六日に対する一日当り五〇〇円相当の額

(三) 付添い看護料 九三万二七五〇円

昭和四九年四月一六日から同年六月三〇日まで、原告の妻高沢静枝をして看護にあたらせ、同年七月一日から昭和五〇年三月三一日まで付添人菅原ミネに看護を依頼した。その結果原告は右菅原に一カ月七万七五〇〇円の看護料九カ月分計六九万七五〇〇円を支払い、妻は看護のため株式会社小六の社員として得べかりし給与一・五カ月分八万四七五〇円相当を得ることができなかつた。

原告は二回目の入院期間中も付添看護を必要とし、昭和五〇年一一月一七日から同年一二月二一日まで付添人武井ハナに看護を依頼し、看護料として一五万〇五〇〇円を支払つた。

(四) 通院交通費 六万〇四八〇円

原告は昭和五〇年五月一一日から昭和五二年一〇月八日までの間、八四日にわたつて通院治療にあたり、そのための交通費としてタクシー代往復七二〇円相当の支払を余儀なくされた。

2 休業損害 五一五万六九一〇円

原告は建築業を経営している者であるが、本件事故のため前記入通院期間中、自ら契約交渉にあたることができず平年並みの受注を得ることができなかつた。

その結果、次のとおりの損害をこうむつた。

(一) 原告は本件事故に遭遇する以前、年額平均一四五万六九〇九円の収入を得ていたものであるが、事故当日の昭和四九年四月一六日から二度目の入院を終える昭和五〇年一二月二一日まで治療に専念することを余儀なくされたため、昭和五〇年度所得は三三七万七九四〇円の赤字となり、昭和五一年度所得は一〇九万四八四八円の低額にとどまつた。

(二) したがつて本件事故による休業の結果、現実の収入減少額は年額平均額と各年度毎の所得との差額である。

昭和五〇年度休業損害 四七九万四八四九円

145万6909-(-333万7940)=479万4849

昭和五一年度休業損害 三六万二〇六一円

145万6909-109万4848=36万2061

3 傷害による入通院慰藉料 二〇〇万円

原告は本件事故により尿道断裂の重傷を負い、その治療のため入院四二六日、通院一九〇日の長期療養を余儀なくされた。

したがつて右傷害による入通院に対する慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

4 後遺障害による逸失利益一〇〇二万六七七九円

原告の後遺障害は、自賠法施行令第二条の「後遺障害別等級表」の第九級の一六に該当し、労働能力喪失率は少くとも三五パーセント、喪失期間は就労可能年齢満六七歳までと考えられるから、後遺障害による逸失利益は次のとおりである。

(一) 昭和五〇年一二月二一日症状固定、原告の年齢満五四歳、昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表産業計男子労働者の当該年齢層の給与額(学歴計)を算出の基礎とすると、

18万7400×12+80万0800=304万9600(円)

(二) 満六七歳までの就労可能年数は一三年であり、これに対応するライプニツツ係数は九・三九四である。

304万9600×0.35×9.394=1002万6779

5 後遺障害による慰藉料二六一万円

右後遺障害(第九級)の慰藉料としては二六一万円が相当である。

6 損害の填補 三一一万円

原告は本件事故による傷害につき、自賠責保険金五〇万円を、後遺障害につき自賠責保険金二六一万円を受領し、それぞれ前記治療費および後遺障害による慰藉料に内入充当した。

したがつて1から5までの損害総額二二三七万七四二四円から右填補額三一一万円を控除した残額は一九二六万七四二四円である。

7 弁護士費用 一五〇万円

原告は本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士報酬として一五〇万円を支払う旨約した。

四  結論

よつて原告は被告竹中れん子に対し、自賠法第三条に基づき、被告竹中毅に対し民法第七〇九条に基づき、各自二〇七六万七四二四円および右金員から弁護士費用を除いた一九二六万七四二四円に対する本件事故当日である昭和四九年四月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項1ないし6は認めるが、7の事故の態様については衝突の事実(ただし車両前部は衝突箇所ではない)を除き否認する。

同項8(一)は認めるが、(二)、(三)は不知。

二  同第二項1は認めるが、同2は否認する。

三  同第三項1の(一)ないし(四)は不知、同項2、4は否認する、同項3、5は争う。同項6は認める。同項7の委任の点を認め、その余は不知。

(被告らの抗弁)

一  被告竹中毅は時速約四〇キロメートルで加害車を運転し、本件交差点を通過しようとしたところ、原告は酔余赤信号を無視し、歩道から二、三メートルの地点の横断歩道上に突如立ち現われ、本件車両の左サイドミラーに自ら触れて本件事故となつた。

右の如き状況下においては自動車運転者としては本件事故を回避することは不可能であり、仮に回避可能であるとしても、老幼者の歩行が途絶えている夜間に信号を無視して車道上に大人が飛び出してくることを予見すべき義務はない(信頼の原則)。

よつて本件事故については被告竹中毅に全く過失がない。さらに加害車の構造機能に欠陥障害はなかつた。

よつて被告竹中れん子には自賠法第三条に基づく損害賠償義務は存しない。

二  仮に本件事故発生につき被告竹中毅に過失がありとするも原告にも前記の過失があつたのであるから、損害賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。

(被告らの抗弁に対する認否)

被告らの抗弁事実はいずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

第一  請求原因第一項中1ないし6の事実、7のうち衝突した事実、8(一)の事実(原告が受傷した事実)は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第七号証の1ないし12、同第八号証の1、2、同第一二号証の1ないし15、同第一六、一七、二〇号証および原告本人尋問の結果によれば、請求原因第一項8の(二)(三)の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

第二  被告竹中れん子が加害車を自己のため運行の用に供するものであることは当事者間に争いがない。

第三  被告竹中れん子は本件事故の発生につき被告竹中毅に過失がない旨抗弁するが、本件証拠上これを認めるに足りず、かえつて後記認定のとおり、被告竹中毅に過失があつたことが明らかであるから、右抗弁は失当である。よつて被告竹中れん子は自賠法第三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

第四  次に被告らの過失相殺の抗弁につき判断する。

成立に争いのない甲第三ないし六号証、乙第一ないし七号証および証人阿波輝宣の証言ならびに原、被告本人尋問の結果(ただし原告本人尋問の結果中、後記措信しない部分は除く)によれば、本件交差点は南北に走る西三丁目通りと東西に走る北九条通りの交差点であつて、信号機による交通整理が行われており、本件交差点付近は道路上の見通しを妨げる障害物とか設置物はなく、右交差点付近の道路の両側には商店、会社、住宅がならび、夜間照明としては道路両側に街路灯の設備があつたが、本件事故当時霧雨が降つており普段より暗い状態で前方左右の見通しが不良のうえ、降雨のため路面がぬれてスリツプしやすい状態であつたこと、被告は昭和四九年四月一六日午後九時過頃、加害車を運転して西三丁目通りを北八条通りから北九条通りに向かつて進行中、北八条通りの交差点の信号機が赤を表示していたので一旦停止し、青信号に変つてから発進し、北九条通りの交差点に時速四〇キロメートルの速度で進入したが、その際被告は本件交差点付近の道路の見通しおよび路面状況が前記のとおりであつたのに、それまでの時速四〇キロメートルの速度で、右交差点を通過すべく減速することなく漫然と同交差点に接近して行つたこと、しかるに本件事故現場の約五、六メートルの至近距離に至つてはじめて被告は原告の存在に気づいたものの、ハンドルを切つてかわす時間的余裕もなく加害車の左前部バツクミラーを原告に衝突させたこと、

他方原告は昭和四九年四月一六日午後六時三〇分頃、訴外鈴木末吉と仕事上の打合せをした際、ビールを約六合飲み、同日午後九時頃歩いて帰宅の途につき、西三丁目通りを南から北に向かつて東側歩道を歩き、本件交差点にさしかかり、右交差点の南側横断歩道を渡ろうとしたところ、原告の進行方向からみて本件交差点の北西方向のかどにある信号機(以下本件信号機という)が青を表示していたので右交差点の南東のかど付近から同交差点の北九条通りにある東側の横断歩道を北西方向に渡りかけ、本件交差点の北東のかど付近に至つたとき、本件信号機が黄色を表示しているであろうと思い、信号機の表示を確かめることなく、かつ原告の進行方向からみて左方の道路への注視を怠つたまゝ、同交差点の北東のかど付近から本件交差点の北側に位置し、北九条通りを東西に横切る横断歩道上に向かつて斜めに近い形で歩き出したが、同横断歩道を渡り終える直前に石につまづき転倒し、おき上がつて間もなく加害車から衝突されるまで、加害車の存在に気づかなかつたこと、以上の諸事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく信用しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

以上の事実によれば、被告は本件交差点に進入するにあたり、当時降雨のため前方の見通しがよくなかつたのであるから減速徐行しかつ前方注視を充分に尽くすべきであるのにこれを怠つた過失があり、原告においても前記過失があつてこれが本件事故発生に寄与しているというべく、本件事故に寄与した原告の過失の割合は、前記認定事実に照らし、四割と認めるのが相当である。

第五  損害

一  治療関係費

1  治療費 一三七万一五六一円

成立に争いのない甲第二号証の4、同第七号証の1ないし12、同第一五号証の1ないし3、同第一九号証の1ないし4、同第二〇号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は札幌医科大学附属病院に左記の期間入通院(実治療通院日数八四日)したこと、

(1) 昭和四九年四月一六日から同五〇年五月一〇日まで入院(三九一日間)

(2) 昭和五〇年五月一一日から同年一一月一六日まで通院(一九〇日間)

(3) 昭和五〇年一一月一七日から同年一二月二一日まで入院(三五日間)

(4) 昭和五〇年一二月二二日から同五二年一〇月八日まで通院(六五七日間)

原告は国民健康保険による診療を受けたので診療費として診療総額四五七万一八七〇円のうち三割に該当する一三七万一五六一円を要したことが認められる。

2  入院諸雑費 二一万三〇〇〇円

原告が本件事故のため四二六日入院したことは前記認定のとおりであるから、入院中諸雑費として一日平均五〇〇円を要することは、当裁判所に顕著である。よつて右入院期間中に要した諸雑費は二一万三〇〇〇円と算定される。

3  付添看護料 七〇万七〇〇〇円

原告本人尋問の結果および同結果により成立の真正が認められる甲第一三号証、同第一四号証の1ないし8によると、原告の妻は勤務していた株式会社小六を退職して、昭和四九年四月一六日から一週間原告の看護に付添つたこと、原告の妻は右会社に勤務していた当時、月平均五万六五〇〇円の給与を得ていたので、看護のため一万四〇〇〇円相当を得ることができなかつたこと、原告は昭和四九年四月一六日入院した際、訴外菅原ミネに同年七月から一二月までと、昭和五〇年三月の通算七ケ月付添看護を依頼し、付添看護料として一カ月七万七五〇〇円、計五四万二五〇〇円を支払つたこと、原告は昭和五〇年一一月一七日入院した際、訴外武井ハナに同年一一月一七日から同年一二月二一日までの三五日間、付添看護を依頼し、看護料として一日金四三〇〇円、計一五万〇五〇〇円を支払つたことが認められる。

以上の事実によれば、付添看護料として、七〇万七〇〇〇円を要したことが認められる。

4  通院交通費 五万八八〇〇円

原告が本件事故のため八四日間通院治療にあたつたことは前記認定のとおりであるところ、原告本人尋問の結果によれば、原告は病院に通院する際、タクシー(片道四二〇円から四六〇円)と電車(片道九〇円)を利用し、天候の悪いときは往復タクシーを利用することが認められる。

右事実によれば、通院の交通費としては一日平均七〇〇円要したものと推認される。

よつて通院による交通費として、五万八八〇〇円要したことが認められる。

二  休業損害 一一一万八九七〇円

原告本人尋問の結果および同結果により成立の真正が認められる甲第一八号証の1ないし4によれば、原告は個人で住宅、店舗等の建築を業としているものであるが、本件事故に遭遇する以前の昭和四八年度の所得として一二一万九七八八円の収入を、昭和四九年度の所得として一六九万四五三〇円の収入をそれぞれ得ていたところ、昭和五〇年度の所得は三三三万七九四〇円の赤字となり、昭和五一年度の所得は一〇九万四八四八円の収入にとどまつたこと、

原告は自己の個人的信用で注文を受けていたので、本件事故により入院したため発注がなくなり、本件事故前五〇〇〇万ないし六〇〇〇万円の売上があつた(昭和四八年度分の売上は約五一五九万円、同四九年度分の売上は約五九九五万円)のに、昭和五〇年度分は約二七〇五万円の売上しかなく、通院期間が短くなつた昭和五一年度分になると仕事が少し増え売上が約三三七三万円と上昇してきたこと、昭和四八年度分の損益計算と同五〇年度分の損益計算を比較してみると、昭和五〇年度分の方がはるかに経費の面で増加しているのは新しくトラツクを購入したためと、手形割引による利子割引料も増加していることによること、

以上の諸事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によれば、原告の昭和五〇年および五一年度分の売上が減少した大きな要因の一つとして原告が本件事故により入院したため、原告が現実に働くこともできず、また仕事の発注が途絶したことによるものと一応解せられる。しかし、昭和五〇年度分の所得が大幅に減少し所得が赤字になつたことについては、本件事故はその原因となりえないと解せられる。すなわち前掲証拠によると、昭和四八年度分の売上約五一五九万円に対し、所得が約一二二万円あつたこと、昭和四九年度分の売上約五九九五万円に対し、所得が約一七〇万円あつたこと、昭和五一年度分の売上三三七三万円に対し、一〇九万四八四八円の所得があつたことが認められ、右事実から判断すれば、昭和五〇年度分の売上は約二七〇五万円であるから、これに対しては少くとも七〇万円の所得が得られたと推認するのが相当である。しかるに前記認定のとおり、売上減に加えて昭和五〇年度においてトラツクを新たに購入したり、手形割引による利子割引料が増加して、経費がかさんだことに、赤字所得になつた原因の大半が存するものと解せられる。

したがつて、本件事故による休業の結果、原告に生じた損害は、昭和四八年度所得一二一万九二八八円と昭和四九年度所得一六九万四五三〇円との平均(一四五万六九〇九円)と、昭和五〇年度、五一年度毎の所得との差額であると解するのが相当である。

昭和五〇年度休業損害

145万6909-70万=75万6909(円)

昭和五一年度休業損害

145万6909-109万4848=36万2061(円)

三  労働能力喪失による損害 四七九万〇一七一円

成立に争いのない甲第二号証の1ないし4、同第一六、一七、二〇号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により入院中、四度におよぶ尿道形成術を受けたにもかかわらず、術後も後部尿道狭窄及び尿道皮膚瘻状態を後遺障害として残すに至り、長い間立つていることができず、尿道に穴をあけているためトイレに行く回数が多く、現場での仕事に支障を来たしていることが認められる。

右事実によれば、右後遺障害は自賠法施行令第二条の「後遺障害別等級表」の第九級の一六に該当すると解せられ、労働能力喪失率は三五パーセント、喪失期間は就労可能年齢満六七歳までとするのが相当である。よつて労働能力喪失による逸失利益を事故時において一時に算定すると次のとおりである。

年収 原告の本件事故当時の年収は前記認定のとおり、一四五万六九〇九円であると解するのが相当である。

喪失期間 原告の症状が固定した昭和五〇年一二月二一日当時、原告は満五四歳であつたから六七歳までの一三年間。

中間利息控除 ライプニツツ方式計算法(係数九・三九四)

計算式 145万6909×0.35×9.394=479万0171(円)

四  慰藉料 四五〇万円

前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の程度等を勘案すれば、入通院による慰藉料として二〇〇万円、後遺障害による慰藉料として二五〇万円計四五〇万円が相当であると解する。

五  以上の合計一二七五万九五〇二円のうち、被告らに負担させるべき額は前記認定の過失割合に照し、七六五万五七〇一円となる。

六  損害のてん補 三一一万円

原告が自賠責保険から右金員の支給を受けたことは当事者間に争いがないから、前記損害はその限度においててん補された。

七  弁護士費用 八〇万円

原告が原告訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任したことは当事者間に争いがないところ、前記認容額、事件の難易等を勘案し、原告が右代理人に支払うべき弁護士費用のうち、被告らに負担させるべき額は八〇万円とするのが相当である。

第六  結語

よつて被告らは原告に対し各自五三四万五七〇一円およびうち弁護士費用を除いた四五四万五七〇一円に対する本件事故の日である昭和四九年四月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求はその限度で認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

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